— 笑えない日々を、今ならロックで笑い飛ばせる —
給料は父に吸い取られ、魂は会社にすり減らされる。
二重搾取のループの中でも、僕は笑って働いていた。
ブラック企業とブラック家族、そのどちらにもいた僕の20代。
今なら少しだけ、笑って話せる――あの頃の話をしよう。
この記事のBGMはこの曲がオススメです。
🏠 第1章:家から職場まで、ブラックのリレー
福岡から帰った僕は、父・母・僕の三人暮らしに戻った。
夜、母はスナックへ。残された父と僕の食卓は、テレビの音とレンチンの湯気だけ。
やがて20歳、母は気づく。自分の給料が父の借金返済に消えていることに。離婚。そして父は自己破産。
(ちなみに今ここでカミングアウトしておくと、僕は自己破産2回・離婚2回。父の「1回・1回」を超えてしまった。B面の親子対決、まさかの完全勝利である。笑)
22歳、僕は逃げるように結婚した。相手は軽く新興宗教に入っていたが、当時の僕は「父の家から出られる」それだけで十分だった。
24歳、長女が生まれる。そこへ父が現れる。
「孫が生まれるんじゃけぇ、一緒に住もうや」
なぜ承諾したのか、今も思い出せない。あの時の僕をぶん殴ってやりたい。
妻の様子は少しずつ変わり、宗教施設に子どもを連れて帰らない日が続いた。クリスマスケーキはNG、神棚はゴミ箱へ。
僕は酒量が増え、彼女を責めた。抱きしめればよかった――その後悔を抱えたまま、僕らは別々の道を歩いた。
長女はこちらで引き取り、父・僕・娘の三人暮らしが始まる。
昼は会社に、夜は家に、二重の搾取。ここからが本番だ。
🚛 第2章:タイヤと汗と、終わらないサービス残業(ルートセールス地獄)
職はタイヤのルートセールス。取引先はガソリンスタンド、町の車屋、タイヤ量販店。
定時は9:00〜17:30。だがタイムカードはない。代わりに「出勤印」を押す。
実働は8:00〜20:00がデフォ。もちろん残業代は空耳。耳をすませば聴こえるのは自分のため息だけ。
ある一日の“正しい”流れ
- 8:00 出社 → 掃除 → 朝礼(やる気ポエム斉唱)
- 午前 営業 → ガソスタへ、車屋へ、タイヤ量販店へ
- 12:30 昼 → 営業車でパンをかじる。味はだいたい“虚無”。
- 午後 営業 → 取引先追加巡回。
- 18:30 帰社 → 棚卸し → 日報(上司の機嫌予報つき)
- 20:00 退社 → 明日のために眠る。のではなく、反省する。
地獄その1|「両替してこい」
取引先に向かう途中、電話が鳴る。
「来る前に銀行で小銭の両替してきて。駄目なら○○タイヤ(競合他社)に頼むわ。」
タイヤじゃなくて両替が仕事。
「僕はいったい何屋だよ(笑)」
断れない自分が情けなかった。
地獄その2|ノルマの代償は大切な時間
土曜も日曜も、客から「タイヤが急ぎでほしい」と電話があれば、
自家用車で配達に走った。
幼い娘を助手席に乗せ、娘は上機嫌。
コンビニでアイスを買って「今日はデートだな」と笑った。
あの小さな笑顔に救われていた。
父に搾取され、会社に縛られても、“この子だけは裏切れない”と思っていた。
地獄その3|棚卸し→日報→説教
帰社後の棚卸しは“今日も頑張りました”の儀式。
日報は“素直さアピール選手権”。正直に書くほど怒られるという高度な心理ゲーム。
上司の決め台詞:「自分で考えろ」。笑顔を作ると「なに笑っとんじゃ」。無の境地に至る修行である。
🏢 第3章:社内ヒエラルキーという名の中世
この営業所、所長より事務員(40代女性)が強い。
気に入らない社員は完全無視。所長は見て見ぬふり。
「○○君、営業向いてないんじゃない?」
やる気はある。正解が見つからないだけだ。
伝説の飲み会
営業所の飲み会で所長が言った。
「今日は無礼講だから言いたいことを言え!」
同僚が勇気を出して言った。
「もっと上司と部下の風通しを良くしてほしいです!」
翌日から――その同僚は無視され、
1週間後には退職していた。
無礼講は“無礼講ではない”という社会のルールを、
僕はここで学んだ。
⚡ 第4章:ノルマ、孤立、そして“心の限界線”
「ブラック企業」と呼ばれる会社の本当の怖さは、残業でも暴言でもない。
**“誰も味方がいない”**と気づいた瞬間だ。
勤続8年目、ついに事務員のターゲットが僕に向いた。
① 朝の挨拶をしても無視。
② 「会社に連絡したのに、なぜ連絡くれない」と客が怒鳴っている。
――そんな連絡、聞いてない。事務員が取り次いでいない。
③ 事務員が僕に話しかけるのは怒る時だけ。
「この値引きは何なんですか!」
交渉で値引きが必要な時もある。今まではそんな事で怒られなかったのに。
もう、心が擦り切れていた。
事務員に会いたくなかった。営業先からの帰社時間を遅らせ、
事務員が帰った後に会社へ戻る。
そこには――無言の所長が待っていた。
沈黙の空気が、書類より重かった。
「お前が悪い」とも「頑張れ」とも言われない。
ただ、蛍光灯の下で、僕だけがモノクロに見えた。
💸 第5章:父と会社、二重搾取のループ
仕事で得た給料は父の管理。
「お前は金の使い方を知らん」
3万円だけ小遣いとしてもらい、
残りは“家計管理”の名のもとに吸い取られる。
昼間は会社に、夜は父に。
二重搾取の無限ループ。
それでも、長女の笑顔だけが生きる理由だった。
🧭 第6章:辞めたきっかけ、そして再生へ
ある日の朝、出社前にミラーを見た。
そこに映っていたのは、目の焦点が合っていない自分。
“もう、音がしない”
心拍数すら仕事に取られた気がした。それが、僕の辞表だった。
退職届は紙ではなく、沈黙だった。
辞めた帰り道、カーステレオから流れたのはThe Kinks。
“Get Back in Line”。
「並べ」「文句を言うな」。
――もう並ばない。自分の列を歩こうと思った。
🎧 今日の一枚:The Kinks『Lola vs Powerman』『Muswell Hillbillies』
「働いても報われない」「上に吸い取られる」
そんな日々を、レイ・デイヴィスは半世紀前に歌っていた。
説教じゃない。労働者のつぶやきだ。
『Lola vs Powerman and the Moneygoround, Pt. One』(1970)
音楽業界の搾取構造を、会社社会の縮図として皮肉る傑作。
- “Get Back in Line”:朝礼前に聴くと、笑うしかない。
- “Top of the Pops”:数字至上主義の滑稽さ。日報のBGMに最適(皮肉)。
『Muswell Hillbillies』(1971)
下町の労働者に寄り添う、人間くさい名作。
- “20th Century Man”:俺はこの時代の歯車じゃない。ハンドルを握る指に戻る力。
- “Oklahoma U.S.A.”:現実の重さと、逃避の優しさ。**「それでも生きる」**ための子守歌。
「名盤か?」と聞かれたら、僕はこう答える。
**“労働者のバイブル”**だと。
🔧 実用メモ:これからルートセールスを目指す人へ(現場からの提言)
- 体力は最高の武器:1日中車→荷降ろし→交渉の往復。腰と握力のケアを最優先。
- “両替”など雑務の線引きを:頼まれたことは記録し、頼まれた人の名前と日時を残す(自衛)。
- ノルマは“分解”:件数×単価×リピートでどこを上げるかを固定する。感情論に飲まれない。
- 日報は“事実→対策→要請”の三行:説教を減らし、支援を引き出す構成に。
- 社内ヒエラルキーは“距離”で回避:無視や取り次ぎ拒否はメールとFAXで残す。議事録は自分発信。
- 辞める時は“音が消えたら”:自分の心拍と笑い声が戻らないなら、B面に針を落とす時だ。
💬 エンディング
ブラック企業で搾取され、家でも搾取された。
それでも僕は、娘の笑顔とキンクスの音に救われた。
A面の人生では報われなくても、B面にはロックがある。
「労働は苦しい。でも、苦しい中にも音楽が鳴っている。」
それが僕の、“B面の仕事哲学”だ。
きっとあなたの中にもあるはずだ。B面にはロックがある。





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