タクシーから介護職へ ― うつ病と入院が転機に
タクシー業界で心身を壊した日々
かつて僕はタクシードライバーとして、夜の街を走り回っていた。
しかし、不規則な生活、酔っぱらい客のトラブル、深夜のゾンビのような乗客…。
気づけば心身がボロボロになり、ついにうつ病を発症した。
入院生活で出会った一冊の本
入院生活は、ただ天井を眺めるだけの長い時間だった。
「もう社会復帰なんてできないのでは?」と絶望していたある日、偶然手に取った一冊の本に書かれていた。
「介護は人に寄り添いながら、自分もまた生き直せる仕事だ」と。
介護初任者研修を受講する決意
その言葉に背中を押され、僕は介護初任者研修を受ける決意をした。
タクシーのハンドルを握っていた僕の手は、今度は利用者さんの手を支えるために使われることになった。
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高齢者デイサービスで始まった新しい仕事
大浴場・トイレ清掃という裏方の現場
僕が最初に任されたのは、大浴場やトイレの清掃と消毒。
「水回りは施設の顔」と言われるだけに責任重大だ。
配膳・おやつ準備・洗い物といった生活支援
200人分の炊飯をしていた弁当屋の経験も活きた。
配膳や洗い物は単純だけど、利用者さんの「ありがとう」の一言で疲れが吹き飛ぶ。
歩行介助・レクリエーション・送迎まで幅広い業務
歩行の付き添い、散歩、レクリエーションの補助、そして送迎。
気づけば僕は、裏方の雑用係でありながらもステージを支えるリズム隊のような存在になっていた。
認知症ケアはまるで “21st Century Schizoid Man”
認知症ケアは本当に予測不能だ。
- 「家に帰りたい」と施設を飛び出そうとする
- 机の上の物を突然投げ散らす
- ご飯を食べた直後に「ご飯はまだ?」と尋ねる
- 同じ話を延々繰り返す
- 自分の席を忘れて迷子になる
- ポケットに物を入れて「盗んだ」と誤解される
- 座ったまま眠り込んで起きない
まるでKing Crimsonの名曲 “21st Century Schizoid Man” のような混沌。
現場は即興ジャムセッションであり、スタッフはその場その場で音を合わせていくしかない。
「I Talk to the Wind」のような笑顔の瞬間
混沌の中にも、美しい瞬間がある。
- 普段は攻撃的な利用者さんが、ボランティアの歌や踊りで普段見せない無邪気な笑顔を見せる。泣けてくる瞬間だ
- 僕の下手なウクレレで、利用者さんたちが楽しそうに大合唱してくれた
- 初もうでやお花見など、季節のイベントで見せる笑顔
- 戦争体験を直接語ってくれた、あの震えるような時間
これらは、まさにアルバム収録曲 「I Talk to the Wind」 のように、静かに心を癒してくれる瞬間だった。
「Epitaph」を思わせる最期の別れ
介護職において避けられないのは「別れ」だ。
ある利用者さんに「余命三ヶ月」と告げられたとき、僕はその方と手を取り合い、最後の「ありがとう」を交わした。
その瞬間の静けさと重みは、King Crimsonの 「Epitaph」 に重なる。
人生の最終楽章に立ち会うこと、それが介護職という仕事の深さだ。
スタッフ間の人間関係は宮殿の“ノイズ”
利用者さん以上に厄介なのは、スタッフ同士の人間関係だった。
- 難しい利用者から逃げる人
- 介護のこだわりが強く、細かく口出しする人
- レクリエーションを丸投げする人
- 利用者さんに嫌味を言う人
- 大声で叱責する上司
荘厳な交響曲の中に、突然差し込む不協和音。
それもまた、この「宮殿」のリアルだった。
今日の一枚:King Crimson『In the Court of the Crimson King』
このアルバムこそ、介護の現場を象徴する一枚だ。
- “21st Century Schizoid Man” → 認知症ケアの混沌
- I Talk to the Wind → 一瞬の笑顔
- Epitaph → 最期の別れ
- Moonchild → 穏やかな午後のひととき
- The Court of the Crimson King → 介護現場そのもの
混沌と荘厳、美しさと不協和音。
すべてを抱きしめたこのアルバムは、介護職という仕事そのものだった。

- 腰を守れ → コルセットや補助具は必須
- 心を守れ → 趣味や仲間と息抜きを
- 資格で未来を広げろ → 初任者から実務者、介護福祉士へ
- 人間関係は受け流せ → ノイズに本気で付き合わない
- 小さな笑顔を大事に → それがアンコールの拍手になる
エンディング ― 混沌と荘厳の宮殿で今日も奏でる
タクシーから介護へ。
絶望から一歩を踏み出した僕は、気づけば「クリムゾン・キングの宮殿」と呼ぶべき現場で生きている。
介護の仕事は決して楽ではない。
でも、そこで奏でられる音楽は、人間の弱さと強さを同時に響かせてくれる。
そして今日もまた、僕はこの宮殿で新しい一曲を演奏している。
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